冷え性の漢方薬処方

西洋医学で冷え性はそれほど重要視されませんが、漢方医学では冷えは身体に不調をきたす元として捕らえ、より着目して治療に当たります。漢方では以下のように考えます。

  1. 全身的な冷え … 気虚(気のエネルギーが足りない状態)
  2. 手足の冷え … 血虚(血の量や機能が低下している状態)
  3. 下半身の冷え … 水滞(余分な水分が排出されない状態)
  4. 冷えのぼせ  … 瘀血(悪い血がたまっている状態)、気逆(気が逆流している状態)
  5. 老化に伴う冷え … 腎虚(気を蓄える腎の機能が低下している状態)

ただし、貧血や甲状腺の病気、動脈硬化などの症状を伴う冷えは、まずそれらの原因を探り治療しなければなりません。

1.全身的な冷えの処方

このタイプは虚証の方が多いので処方もそれにあわせたものになります。
食欲不振、下痢、胃もたれ吐き気がある方は「人参湯」、腹痛や下痢、頻尿、めまい、動悸がある方は「桂枝人参湯」、疲れやすく倦怠感があり食欲不振で貧血傾向にある方は「十全大補湯」が候補になります。

2.手足の冷えの処方

手足の先がしもやけのように冷える方は「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」、関節痛や腫れがあり、食欲不振で貧血傾向にある方は「大防風湯」、手のひらや足の裏がほてり皮膚が乾燥して月経不順などがある方は「温経湯」が候補になります。

3.下半身の冷えの処方

めまいや倦怠感、下痢、むくみなどの症状がある方は「真武湯」、関節の腫れや痛み、しびれ、発汗症状などある方は「桂枝加朮附湯」、下半身の脱力感やだるさ、むくみ、尿量が多いなどの方は「苓姜朮甘湯」が候補になります。

4.冷えのぼせの処方

まずは「桂枝茯苓丸」か「五積散」、加えて原因不明の様々な不調がある方は「加味逍遙散」、便秘、不安、不眠、下腹部痛がある方は「桃核承気湯(実証)」、めまい、貧血、むくみがある方は「当帰芍薬」が候補になります。

5.老化に伴う冷えの処方

この場合は「八味丸(八味地黄丸)」か「牛車腎気丸」を試して下さい。

 

虚実証とは

その人が生まれながらに持っている要素を「証」として分類したのが虚実証です。


実証
体格・骨格がガッチリしていて、筋肉量も多く、胃腸が丈夫な方。


虚証
体格・骨格が弱々しく、筋肉量も少なく、胃腸虚弱な方。


虚実間証
体格・骨格、筋肉量が普通で、胃腸も問題ない方。


自分が実証だと思う方は「実証~虚実間証」、虚証だと思う場合は「虚実間証~虚証」と判断すると漢方薬の選択が広がります。

陰陽証とは

陽証
冷たい飲み物や寒冷刺激を好む方、風邪で熱が出た時、身体が熱くなる方


陰証
温かい飲み物や温暖刺激を好む方、風邪で熱が出た時に寒くなる方


病気の進行状況によっても陰陽の表現が使われ、症状が強く現われる進行期を陽、病状が落ち着いてきた時を陰として判断する場合もあります。

気血水とは

漢方では気と血と水がバランス良く体内を流れることで健康を保つと考えられています。 「気」は根本的な生命エネルギーを表し、心身の活力や免疫に影響します。
「血」は血液やその機能、それによって運ばれる栄養、ホルモンなどを表します。
「水」は血液以外の体液や体内の水分、リンパ液や消化液、尿や汗などの機能を表しています。


気虚…気の量が不足し活力が低下している状態


気逆…気が上へと逆流している状態


気うつ(気滞)…気の流れが悪くなっている状態


瘀血…血流が悪くなり停滞している状態


血虚…血の量や機能が低下している状態


水滞(水毒)…余分な体液が体内に溜まった状態