過敏性腸症候群の漢方薬処方

腸に炎症や感染、特別な病気などが無いのに、腹痛、下痢、便秘、お腹の張りなどを繰り返す症状が特徴的な病気です。主に不安感や精神的なストレスが影響していると考えられています。
こういった症状を西洋薬で治療する場合対処療法になりがちですが、漢方治療では原因となる精神的な要素を改善し症状を治療することを目的にしています。

症状は、下痢型、便秘型、交代型(下痢、便秘を繰り返す)の3タイプに分かれます。

まず「うつ症状」の判断

うつ症状がある場合、胃腸虚弱で体力が無い虚証の方は「香蘇散」、体力や胃腸は普通といえる方は「半夏厚朴湯」が候補になります。前者はみぞおち辺りが痛くなったり、後者は几帳面で神経質な症状、咽や胸のつまり感が見受けられたりします。

「うつ症状」が無い場合

腹痛やお腹の張りを感じる虚証の方は「桂枝加芍薬湯」、虚実間証や実証の方は「半夏瀉心湯」を試してみましょう。

これらの処方で効果があまり感じられない方は以下の処方を参考にして下さい。

実証、虚実間証の処方

便秘型の場合で、腹痛やお腹の張りなどがある方は「桂枝加芍薬大黄湯」、皮膚が乾燥したり艶が無い方は「黄芩湯」。
下痢型の場合で、みぞおちに痛みがあったり、胸焼け、吐き気、お腹がゴロゴロ鳴る方は「潤腸湯」。
交代型の場合で、肋骨下に圧痛や不快感がり、不眠や不安感が感じられる方は「四逆散」、腹筋が緊張していたり、腹痛、発汗症状がある方は「柴胡桂枝湯」か「柴苓湯」。
タイプを問わず吐き気や嘔吐が強い場合は「大黄甘草湯」が候補になります。

虚証の処方

便秘型の場合で、腹痛やお腹の張り、倦怠感が強い方は「大建中湯」か「清暑益気湯」、皮膚が乾燥している方は「麻子仁丸」。
下痢型の場合で、冷え性、胃もたれ、吐き気、みぞおちの痛みがある方は「人参湯」、めまいがありフラフラし冷え性などもある方は「真武湯」。
交代型の場合で、疲れやすくお腹にガスが溜まりやすい方は「小建中湯」、神経過敏でイライラし怒りやすい方は「加味逍遙散」が候補になります。

それでもダメなら

腹痛が強い場合は「当帰芍薬散」、下痢型でガスが溜まりやすくお腹が張る方は「平胃散」、お腹が張り、冷えると絞られるような痛みを感じる方は「当帰四逆加呉茱萸生姜湯」を試して下さい。

 

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虚実証とは

その人が生まれながらに持っている要素を「証」として分類したのが虚実証です。


実証
体格・骨格がガッチリしていて、筋肉量も多く、胃腸が丈夫な方。


虚証
体格・骨格が弱々しく、筋肉量も少なく、胃腸虚弱な方。


虚実間証
体格・骨格、筋肉量が普通で、胃腸も問題ない方。


自分が実証だと思う方は「実証~虚実間証」、虚証だと思う場合は「虚実間証~虚証」と判断すると漢方薬の選択が広がります。

陰陽証とは

陽証
冷たい飲み物や寒冷刺激を好む方、風邪で熱が出た時、身体が熱くなる方


陰証
温かい飲み物や温暖刺激を好む方、風邪で熱が出た時に寒くなる方


病気の進行状況によっても陰陽の表現が使われ、症状が強く現われる進行期を陽、病状が落ち着いてきた時を陰として判断する場合もあります。

気血水とは

漢方では気と血と水がバランス良く体内を流れることで健康を保つと考えられています。 「気」は根本的な生命エネルギーを表し、心身の活力や免疫に影響します。
「血」は血液やその機能、それによって運ばれる栄養、ホルモンなどを表します。
「水」は血液以外の体液や体内の水分、リンパ液や消化液、尿や汗などの機能を表しています。


気虚…気の量が不足し活力が低下している状態


気逆…気が上へと逆流している状態


気うつ(気滞)…気の流れが悪くなっている状態


瘀血…血流が悪くなり停滞している状態


血虚…血の量や機能が低下している状態


水滞(水毒)…余分な体液が体内に溜まった状態